年代・時代

1936〜1983年

あらすじ

通信社の記者であった峠草平は、オリンピックに湧くベルリンでとある事件に巻き込まれます。

その事件をきっかけに帰国後も次々と危険な目にあうことに。

なぜこんな事件に巻き込まれることになったのか、謎解きを進めていく草平。

一方、神戸ではユダヤ人のアドルフと日独ハーフのアドルフという友人だった2人のアドルフの
運命が時代の流れとともに大きく変化。

1人はユダヤ人として同胞を助け、1人はドイツの青年将校としてユダヤ人を追いつめていきます。

草平が巻き込まれ追われることになった原因と、2人のアドルフの運命のベクトルの先にいたのは
3人目のアドルフ、かのアドルフ・ヒトラー総統でした。

ヒトラーの秘密に巻き込まれた三人はどのように終戦を迎えるのでしょうか。

読み物としての評価

(1)書評

第二次世界大戦の最中、ユダヤ人とドイツ人、そして日本人の三者関係を描いた作品です。

話の軸は20世紀最大の独裁者として歴史に名を刻まれた「アドルフ・ヒトラー」。

彼のとある秘密を鍵にストーリーが進行していきます。

歴史上の「アドルフ」である「アドルフ・ヒトラー」と、物語の主人公格である2人のオリジナル
キャラクター、ユダヤ人の「アドルフ・カミル」、そして日独ハーフの「アドルフ・カウフマン」。

この三人の数奇な運命を、事件に巻き込まれた第三者・日本人「峠草平」の視点で語るという、
非常に凝った設定が読みやすさと面白さの土台にあります。

実際の歴史と作者の仮説を、サスペンスドラマに仕立てた手塚治虫の名作です。

(2)推奨する対象年齢

13歳〜

戦時中の話のため、拷問、殺人など暴力的な表現が度々登場しますので、中学以降が望ましい
と思います。

(3)総括と評点

ドラマとしては傑作。手塚治虫作品の中でも特に面白い漫画。

(5/5)

学習への有効性評価

(1)小学生学習補助

ア.書評

小学生の社会の授業においては、時代や地理に関してのイメージが重要です。

どんなイメージを持っているのか、知っている内容があるのかどうかで興味関心が変わります。

『アドルフに告ぐ』は第二次世界大戦時のドイツと日本を舞台にストーリーが展開されていきます。

当時の時代感が伝わるのが小学校の学習においては最も重要であると思われます。

『アドルフに告ぐ』のストーリーをベースに考えていくと、まずは「第二次世界大戦」という
大事件があったということ、そしてそのキーマンとして「アドルフ・ヒトラー」という人物がいた
ということ、この2点が小学校の学習においての重要ポイントです。

この作品を読むことで、第二次世界大戦時にはなんだか窮屈な世界だったんだなということが
具体的にイメージしやすくなるでしょう。

そうすると、当時の時代感を漠然とでも掴みやすくなります。

次に「ユダヤ人」というワードについて物語を通して深められるのがGOODポイントです。

世界史において「ユダヤ人」はいくつもの時代に渡って超重要な存在です。

古代においてはダビデやソロモン王、イエス・キリストとローマの侵攻、近代においてはナチスの
ホロコーストやイスラエル建国による中東戦争などが挙げられます。

今の世界情勢を語る上でもユダヤ人の存在は避けて通れないのです。

『アドルフに告ぐ』は世界史ばかりではなく現代社会にも役立つ情報が満載の作品です。

ただし、ストーリーは多くの伏線が引かれ、三人のアドルフと語り部の峠草平の四人の運命が
複雑に絡み合っているため、なかなか難しい構成になっています。

小学校低学年はもちろん中学年でも理解するのは難しいかもしれません。

また、当時の時代背景上致し方ない部分は多大にありますが、特高警察による拷問やユダヤ人への
残虐行為など、暴力的な描写が多く、作品自体は大人向けの内容になっているため、小学生に
読ませる場合には注意が必要です。

イ.総括と評点

内容が複雑で小学生には理解しにくい。暴力的な表現が多いのもX。

(1/5)

(2)中学受験

ア.書評

『アドルフに告ぐ』の時代範囲の中で、中学受験に登場しそうなワードは限られています。

先に述べたように「第二次世界大戦」「アドルフ・ヒトラー」「ユダヤ人」が重要ワードに
なるでしょう。

次に難易度は高くなりますが、「特別高等警察(特高)」「ホロコースト」あたりでしょうか。

そのほか、歴史的なワードは作中に多数登場しますが、中学受験レベルは超えていますので、
中学受験に直接役立つ部分はごくわずかです。

そういった意味では受験対策としてはそれほど有効な作品とは言えません。

社会(歴史)ではなく、国語科目で考えればまだ有効な部分は見出せます。

一つは文脈の読解力です。

登場人物が複雑に絡み合っているので、誰がどうしてどうなったのか、物事の原因と結果について
読み解く能力が求められます。

本作品はそれがわからないと物語を読み進められないようにできているのです。

もう一つは登場人物の感情の変化です。

仲の良かった2人のアドルフがなぜ異なる運命を辿り、対立するようになったのか、
そのタイミングごとに作中では感情表現が印象的に描かれています。

登場人物の感情に注意して読み進めると感情の変化が起こったポイントがわかるようになって
きます。

ただし、受験勉強の一環としての国語力アップを期待するのであれば、受験対策用のテキストを
行った方が効果は高いので、『アドルフに告ぐ』はあくまで「多少役に立つ息抜き漫画」くらいの
認識が妥当でしょう。

イ.総括と評点

歴史的にも内容が深すぎるので中学受験対策としては不要。

(1/5)

(3)高校受験

ア.書評

歴史の授業において近現代はさらりと流されがちな時代です。

というのも、先の時代に授業時間を使い果たしてしまい、後半になればなるほど学校で習う時間が
短くなるのが特徴です。

にも関わらず、入試で出やすいのは明治維新以降の近世だったりします。

特に世界が混沌とし始める第一次世界大戦から第二次世界大戦の流れは様々な国々が入り混じり、
敵味方に分かれるため、ちんぷんかんぷんになってしまいがちです。

重要な単語を覚えるのも大切ですが、重要なのはなぜそうなったのか、時代背景や因果関係を
掴むことです。

『アドルフに告ぐ』においては、第二次世界大戦前夜である1936年から物語はスタートしており、
どのようにしてドイツが第二次世界大戦に踏み切り、また戦時中にどんな政策を行ってきたのかが
読み取れます。

本作では特にユダヤ人に対しての政策に焦点を当てており、それに関わる時代背景がイメージ
しやすくなっています。

また、第二次世界大戦に日本がどのように関わったのかという日本史の視点でも見ることが
できます。

当時、日本とドイツは同盟関係にあり、お互いに様々な影響を受けていました。

それは、神戸編の2人のアドルフの物語からも具体的な状況を読み取ることができます。

第二次世界大戦の中心国であるドイツと同盟国日本の歴史的背景を知ることができる作品として
高校受験に効果のある漫画です。

イ.総括と評点

時代背景がわかりやすく描かれているので頭に入ってきやすい。

(4/5)

(4)大学受験

ア.書評

大学入試において(特に私立大)は、近現代史の出題率が高いことが特徴です。

中学校同様、時間不足で最後まで授業で進むことができなかった高校も多く、この分野の得点率が
合格の成否を分けると言っても過言ではありません。

『アドルフに告ぐ』では第二次世界大戦の中心国であったドイツについて、特にユダヤ人政策に
ついて細かな描写がされています。

難関大入試にしか出てこないマニアックな単語(例えば「ゲシュタポ」、「スパイ・ゾルゲ」、
「ゲッベルス」、「アイヒマン」など)が登場し、それがどんなものか、どんな因果関係が
あるのかをわかりやすく知ることができます。

ただ問題は『アドルフに告ぐ』で描かれている内容は全て史実ではないということです。

現実の歴史的な舞台をテーマに描かれた作品ではあるものの、手塚治虫のオリジナル要素が
多々あります。

本作のキーワードであった「アドルフ・ヒトラーはユダヤ人の血を引いている」というものも、
そのような説があるというだけで事実認定されていません。

他には親衛隊員に抜擢されたカウフマンは純系アーリア人ではないので本来は入隊ができない、
ヒトラーの秘書が男性として描かれていますが本来は女性である、など多岐に渡ります。

そして特高の赤羽警部やゲシュタポのランプ部長、主人公格である峠草平、カミル、カウフマンの
三人でさえ架空の人物であり、物語のほとんどは架空の人物で成り立っている作品です。

そのため大学受験で役立てるのであれば、何が史実で何が史実ではないのかを理解して
読み進めていく必要があります。

イ.総括と評点

第二次世界大戦時のドイツについて深く知ることができるが、史実以外の情報も多いので注意。

(3/5)

まとめ

第二次世界大戦についてその背景や時代感を知るには有効な漫画ですが、巨匠・手塚治虫ならでは
のオリジナリティが随所に光る作品なので、直接的な学習に有効かと言われれば少々難しいかも
しれません。

ただ、「その時代の雰囲気を掴みたい」、ある程度史実を知っている上で「当時のもっと詳しい
歴史を知りたい」というニーズにおいては効果的です。

ドラマチックに描かれているので、単純に読み物としては非常に面白い作品です。